鹿児島からビジネス創生の機運を高め、後押しをしていこうと昨年度から始まった鹿児島県ビジネスプランコンテスト。
現在、今年度の応募者を募集中です!
どのようなビジネスプランを描けば良いのでしょうか?これからニュービジネスに挑もうという方々へのヒントになればと、昨年度の受賞者の方にお会いしてきました。
まずは、最高賞の大賞を受賞したスディックスバイオテックの社長、隅田泰生さんの登場です。
大学発のベンチャーに挑む!
社長は、鹿児島大学のバイオ研究者
会社のオフィスでの取材かな?と思っていたら「私の職場の鹿児島大学の研究室にどうぞ」…とのこと。
そう、隅田さんは、鹿児島大学大学院理工学研究科の教授で、バイオテクノロジーの研究者なのです。

(株)スディックスバイオテック
代表取締役 隅田泰生さん
(鹿児島大学教授・工学博士)
「会社の事務所は、顧問の家の一部屋を借りているんですよ。(笑)社員は11人。大学でベンチャーなんて苦労するだけだぞって、みんな言うけど、ベンチャーだからやれることがある。大きな企業では時間がかかってしょうがないことが、スピーディにかたちにできて、それが世のため、人のために役に立つ。会社も世の中も、早くハッピーになるって、すごく良いじゃないですか。大学発のベンチャーは、難しいけど、とても面白いなぁと思いますよ。」
バイオ技術で畜産農家を救う!
「使えるものじゃなければバイオテクノロジーじゃない」と話す隅田さん。常に自分の研究を世の中の役に立つものとして具現化することに心を砕いてきました。
コンテストで大賞を受賞したビジネスプランも、そんな隅田さんの研究の成果を社会の役に立つものとして描き出したものでした。

長年のバイオ研究の成果からビジネスの種が生まれた!
そのプランとは、隅田さんの開発した「超高感度のウイルス検査」によって、これまで畜産農家を悩ませてきた家畜のウイルス感染の被害を大幅に減らすというものでした。
大賞を受賞した隅田さんのビジネスプラン
現場でできる超高感度ウイルス検査 ~疫病の被害を減らして収益向上~
プランは、畜産業界の困りごとへの現状分析から始まります。
その現状分析とは…
- 鹿児島県の家畜などの慢性疾病によって発生する経済的損失は畜産部門の農業算出額の7%に及ぶ。日本全体の畜産市場では約2,200億円の損失が起きていると仮定される。
- ウイルスの陽性疑惑が発生した場合、専門機関に依頼(外注)しなければならないため、結果を知るのに最速でも数日かかり、迅速に防疫・対応策を実施することが出来ない。
ではどうすれば良いのか…
畜産現場ですぐに、精度の高い検査を行うことが出来れば、感染拡大を防ぎ、被害を最小限に抑えることがきる。
ここで、隅田さんが開発した「現場で出来る超高感度のウイルス検査」が大きな力を発揮することになります。
隅田さんは、細胞の表面にある糖鎖(砂糖で出来た鎖)の研究の第一人者です。その糖鎖にウイルスが結合しやすいという性質に着目し、その糖鎖を使って、ウイルスをいち早く捉える独自の検査法を開発してきました。

糖鎖にウイルスが結合しやすいことに着目

それを逆手に取り、糖鎖を着けた「ナノ粒子」を使ってウイルスを
早く捕らえて検出する技術を開発
その検査の感度は従来の50万倍とも言われ、インフルエンザの検査で大きな注目を集めました。
超微量の唾液を採取するだけで、これまで陽性反応が出なかった初期の患者のウイルス感染を確認するなどその成果が実証されてきました。しかも、これまで2時間以上かかっていた検査結果が20分以内でわかるなど、検査時間の大幅な短縮も画期的なことでした。

集めたサンプルを測定器で遠心分離
20分たらずで微量のウイルス感染を確認できる
「超高感度」と「検査の圧倒的な時間短縮」という2つの武器をもった隅田さんの新技術を家畜のウイルス感染対策に応用しようというのが今回のビジネスプランです。
この検査で、畜産業界の経済的損失となっているウイルス感染の被害を減らし、収益の向上につなげようというものです。
「鹿児島は畜産県ですよね。ウイルス感染は大きなダメージです。4年前にも豚の流行性下痢症が流行って深刻な問題になりました。感染が疑われた場合、専門の検査機関に、血清や口腔液を送って、検査結果を待つことになる。その間に感染が広がって、被害が大きくなるということが起きるわけです。
誰でも現場で簡単に検査を行うことが出来るようになれば、畜産農家の方々が受けるダメージは減ります。オンサイト(現場)での遺伝子検査を実現することで、被害の拡大を確実に減らすことが出来るんです。」
バラ色にみえるこのプランですが、課題もありました。測定器の軽量化です。フットワーク良く、現場でウイルス検査をするためには30キロの測定器は重すぎました。

開発当初の測定器。30キロもあって、大きくて重かったです!
実用化に向けて試行錯誤を重ね、使い勝手の良いものに進化させてきました。

コンパクトになった測定器を持つ隅田さん
「30キロあった測定器が8キロになりました。これだったら獣医さんたちが、検査キットと測定器を車に積んで、畜産農家をまわって検査することが出来るでしょ。
現場でウイルス検査を出来る体制が出来れば、家畜ウイルス検査の世界は劇的に変わるでしょう。獣医さんたちが畜産農家のところへ出かけていってウイルス検査するようになる日も近いですよ」と、とても嬉しそうです。
大学発ベンチャーの険しい道とその先の光
隅田さんは、鹿児島大学に赴任したのが2002年。その4年後に思い切ってベンチャーを立ち上げました。
研究成果の中に「世の中に売り出せる技術ができた」という確信からでした。論文による成果発表が主流の中で、ビジネスによる社会還元というチャレンジの道を選んだのです。

研究者としてベンチャーの社長として忙しい毎日…
「そりゃ、もう必死ですよ。ベンチャーは慈善団体じゃないんで、お金が回っていく仕組みを作らなきゃならない。浮き草ではまずいわけです。
様々な特許をとり、公的機関の研究助成事業に応募し、起業、ベンチャー支援の様々な事業にも積極的に手をあげ、補助金や開発費を獲得してきました。
それだけ私のベンチャーにはお金がかかっているので、結果を出さなきゃならないんですよ。この技術で、社会にご恩返ししていかなきゃならない。」
起業家として必要なこと…それはネバーギブアップ!
研究者として起業家として順風満帆に見える隅田さんに、これまでの道のりのことを伺ってみると…「いやぁ、とんでもない『死の谷』も見てきたんですよ。」と…

平成30年度鹿児島県ビジネスプランコンテストで大賞を受賞した
(株)スディックスバイオテック 代表取締役
隅田泰生さん
「2008年秋、リーマンショック(世界経済不況)があったでしょ。あの時は、その波をもろに被って、毎月300万円くらいずつ無くなっていきましたよ。さすがに怖かったです。
その時、これまで描いていた事業を見直し、経営規模を縮小し、経営の立て直しを図りました。振り返ると、これが良い経験になりました。
ベンチャーの本場、アメリカでも大きな失敗をした人の方が、その後、良い仕事をして成功しているんです。そして人気がある。(笑)失敗から何を学ぶかが大事です。
私たち研究者は10回やって1回成功すれば、優秀な3割バッターなんです。300回やって結果が出ないこともザラです。研究も事業も、ネバーギブアップ。
私が、この2つを続けていられるのも、「しつこい」と言われるくらい粘り強いところ、そして結果がすぐに出なくてもあまりがっかりしない「楽観的思考」が出来るところかな。(笑)」
ダーウィンの海を渡る
そして、ビジネスの世界で言われているこんな言葉を引用しながら、自分が目指しているビジネスモデルについて話して下さいました。
「ベンチャーが研究開発をビジネス化していく上で、乗り越えなければいけない3つの障壁があると言われています。これまでにない新しいものを生み出す苦しみ『魔の川』を渡り、研究開発を事業化していく『死の谷』を超えてきました。
そして今、最後の関門、この製品を、市場に乗せ、産業化していくという『ダーウィンの海』を渡っている最中です。この鹿児島から、世界の市場で勝負できて、世の中の人たちを幸せにする技術として広めていくことがこれからの仕事です。」

ベンチャー創業10周年に、仲間や協力者のみなさんと…
(2016年)
鹿児島発のベンチャーで世界の人々を幸せに…
その言葉通り、隅田さんの「超高感度ウイルス検査」によるビジネスは世界市場を視野に入れて動き出しています。
インフルエンザ検査については来シーズンからの実用化に向けて体外診断薬としての薬事承認のための治験申請を行っています。承認されると保険適用の道が開け、精度の高い検査がより身近に受けられる体制が整うことになります。
また、家畜のウイルス検査については、2016年から世界中で被害が出ている豚繁殖・呼吸障害性症候群ウイルスや中国で大問題になっているアフリカ豚コレラなど、検査の実用化を心待ちにしているところが数多くあります。
実証効果の検証を続けながら、まずは東南アジア市場からビジネス展開を目指すことにしています。
隅田さんのベンチャービジネスの原動力は、「この技術で世界を助ける」という強い信念です。その信念のもとに、夢ものがたりでは無い、現実のビジネスモデルを描き切っているところにその凄さがあるのだと感じました。
コンテストにチャレンジする人へ
隅田さんからのメッセージ
「新しい研究は「これ面白いんちゃう?」という発想からスタートするんだけれど、アイディアだけでは、ビジネスにはならない。
そのプランを具現化してほしい。去年エントリーした人たちの中には、私とは畑違いだけど「これは面白い。これはビジネスとしてものになる」って思わせるものが幾つもありましたよね。
どれも、ビジネスとしての有効性がしっかりと実証されていて、ビジネスモデルがしっかりと描かれていました。
自分はこのビジネスで何を目指しているのか、どこに到達しようとしているのかをはっきりさせ、そして到達するまでの工程スケジュールもしっかり描く。
それが、ビジネスの夢実現への第一歩だと思います。地に足をつけた新しいベンチャーが鹿児島から生まれてくることを期待しています。」
【動画で見る】大学発ベンチャー!
大賞受賞者インタビュー
>>ビジネスモデルの描き方 鹿児島県ビジネスプランコンテスト受賞者に聞くパート1